夢で見たあの子のために 2巻の感想~ストーリー・背景描写から感情を刺激する良作 

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2巻冒頭のシーン。

森の中で偶然見つけた乗り捨てられた車。ここを隠れ家、「基地」と称して二人だけの濃密空間を過ごす兄弟。

その隠れ家から遠方に見える鉄塔までの道のりを冒険の旅として楽しむ二人。

塔から再び戻るのに道に迷い、5歳児なのに夜遅く帰宅したことで父親からそろって殴られる。

子供時代に多くの人が経験したことのあるこの秘密基地体験により、強烈ノスタルジー感情が読み起こされるとともに、兄弟の絆の深さがまざまざと印象づけられます。

この2巻で千里は騙した相手から逆に返り討ちに合い、一登探索のために貯めてきたお金を失ってしまいます。

しかし、未来の自分に想いを馳せる中、視覚共有体験が再び起こり、一登の生存を確信するシーンで終わります。

ストーリー展開だけでなく、コマ割や背景描写も魅力に富んでいるこの作品2巻では、特に次の3点が印象に残りました。

多数の擬音の吹き出しがシーンごとの臨場感を増幅



8話「罠」では、尾行されおびえる千里の心情が「じゃり」「じゃり」「どくん」「どくん」という無数の音によって効果的に表現されています。

10話「鉄塔」では、高校生になった千里が再び一登との思い出の森の中の道を恵南とともに歩きます。そこでは「リッリッ」「ジー」と多数の虫の声が鳴り響いています。

辺りは天高く無数の星が輝いている夜。

恵南は千里に「未来を想う力」が決定的に欠けていると指摘します。

染み入る虫の声は二人が本心で向き合うシーンを効果的に演出し、その言葉の意味を読者にも印象付ける効果を生んでいます。

メッセージ性の強く印象的な一言



特に印象に残った二つのセリフです。

「目先の事に囚われて大切な物を逃さんでくれ」(千里のじいさん)

「自分の姿を見せたい相手ってホントは幼い頃の自分なんだと思う・・・その為に今出来る事を積み重ねて・・・その先にあたしが思う未来の姿がある」(恵南)

大きなコマを使って表現された心象風景



目の間にはビルの谷間に沈む大きな太陽。

じいさんに「幸せなお前の未来だけを信じとる」と言われ、復讐のためだけに生きている自分の今の人生を思い返す千里。沈む太陽は真の自由な生き方を見いだせていない千里の今を暗示しています。

深夜一面に輝く星空を見上げるようにそびえ立つ思い出の鉄塔。

幼い頃一登と探索した鉄塔の前に、恵南とともに訪れた千里。それはまだ見ぬ「生きたい」と思える未来に想いを馳せる、千里の心情を効果的に表現しています。


感情を刺激してくれる良作です。



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著者の紹介

十代の一人娘と子猫と暮らすという、レア人種のアラフィフ男子。 ユニークな遊び体験やコンテンツ作品の背景にある社会や人の本質について、感じ、考えたことを発信しています。

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