「HOPE〜期待ゼロの新入社員〜」と韓国事情 

インターンでのプレゼン大会を経て与一物産に入社することになった、一ノ瀬歩、香月あかね、桐明真司、人見将吾という4人の新入社員とそれぞれの配属先部署でまきおこる人間ドラマが面白い。4人のキャラクターが個性的でかぶりがなく特長的で、似たようなくタイプがどの会社にもいそうな人物像である。新入社員としての目線で彼らのとまどいと成長に共感したり、彼らの上長としての立場で若い部下への接し方という視点でも共感できる。

しかし、女性の新入社員に上司が書類を投げつけて顔に切り傷を負わせたり、新入社員が隣の部署のキャビネにある書類を夜忍び込んで入手したり、囲碁になぞらえて攻めの一手と評して暴走ともいえる猿芝居の電話を上司にしたりと、現実離れした展開も多々あり、今ひとつのめり込めない

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一方、このドラマの原作が韓国のWeb漫画であり、韓国でも2014年末に『ミセン-未生』としてドラマ化され、ドラマ賞を総なめにし、社会現象となった作品のリメイクであることを考えると見え方が変わってくる。「ミセン」とは囲碁用語で、完全な「死に石」でなく、どちらにも転ぶ石のことで、まさにこのドラマの主人公を表している。





韓国では「学歴があれば一流企業に勤めることができて、幸せな家庭を築ける」という社会通念が浸透している。高校までは受験がなく、「大学修学能力試験」と「各大学の入試試験」という二つの試験で大学が決まるという。受験生は高校3年生の11月ごろに「大学修学能力試験」を受け、その成績によって受験大学を選び、年明けから始まる各大学の入学試験を受ける。入学採点の割合は「大学修学能力試験」の成績が約6割を占め、「大学修学能力試験」での失敗は大学受験失敗に繋がるため、「18年間の学生生活はたった1日の修学能力試験のためにある」とまで言われるほどの超学歴社会となっている。日本よりも大学進学率が10ポイント以上高く昨年度で71%だが、大卒就職率は日本の80%に対して56%と、過酷な競争社会である。その結果、若年の失業率が高く、2014年度に世界30カ国で実施した「子供の幸福度調査」で韓国は最下位となっている。

この韓国の社会背景をふまえると、高卒でインターンから入社した一ノ瀬が悩み、 無茶をしながらも高学歴の同期を差し置いて会社で手柄を立てて成長していく姿が韓国の人々に共感を生むことがよりよく理解できる。こちらの記事にもある韓国社会のひどいセクハラ問題をふまえると、香月が能力はあるのに雑用ばかりさせられ、待遇がよくない中、自分が正しいと考えるとことをしなさいという、食品2課長白石からのアドバイスに従った行動もよく理解できる。探していた契約書があるキャビネの鍵番号を一ノ瀬に教える行動は、勇気ある正義を貫く行動として共感を生むのだろう。

「ミセン」が韓国のリアルな社会問題を扱った社会派ドラマとして大ヒットしたのは頷けるものの、大卒が大多数を占める日本社会で、高卒の契約社員が活躍するという設定や、このドラマのパワハラ・セクハラの描かれ方は日本のマス社会の実態とは乖離しているように思う。韓国でのドラマ「ミセン」は未視聴ながら、あらすじを見る限り今のところほぼ原作と同じ設定・ストーリー展開であるため、日本でこのドラマが人々の大きな共感をもってむかえられることは難しいように思う。

日本で20代の若者を主人公にした共感を呼ぶドラマを作るなら、入社して数年後を舞台として、自分のスキルアップをどのように実現し、キャリアをどう築くか、生きがいをどこに見出すか、自社内と他社にいる大学同期の中での自分を振り返る視点、転職すべきかなどをその上長目線も交えて主テーマとした方が多くの人の共感を呼ぶのではないだろうか。

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著者 ”さぐりん”の紹介

十代の一人娘と子猫と暮らすという、レア人種のアラフィフ男子。 ユニークな遊び体験やコンテンツ作品の背景にある社会や人の本質について、感じ、考えたことを発信しています。

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